校長だより

帰国生の海外留学

2019年6月12日

◆元生徒の海外大学正規留学◆
先日、ロンドン大学のキングス・カレッジに留学しているJOBAロンドン校の元生徒Tくんに会いました。小6まで現地校に通い、帰国枠受験をして東京の成蹊中学校に入学した生徒です。早稲田大学の政経学部に合格していたことは聞き及んでいましたので、大学の交換留学制度を使っての留学かと思い尋ねれば、正規留学で、早稲田大学は退学したとのことでした。日本から海外大学に正規留学する学生は、各高校の進学実績を見ていると増えてはいるものの、かなりの少数派です。このような中、交換留学ではなく、正規留学にした理由を知りたくなり、本人に最終決断までの経緯を詳しく聞いてみました。以下には、その様子や海外留学をめぐる状況、また日本の大学の入試制度の現状などについてお伝えします。

◆正規留学までのステップ◆
Tくんに話をよく聞いてみると、早稲田大学の退学は、早稲田大学を受験する前から決めていたとのことでした。キングス・カレッジの合格が決まれば、早稲田大学に通うつもりはなかったのだそうです。彼の場合、AレベルやGCSE、IBディプロマを取っていたわけではなかったため、まずはキングス・カレッジのファウンデーション・コースに入学し、専門分野につながる学習を経て、1年後の試験に合格して晴れてキングス・カレッジへの入学が叶いました。なお、ファウンデーション・コースに入るには、日本の高校を卒業した場合には、専門につながる教科の学校成績が平均4以上であること、IELTSの結果が総合力において6以上である必要があります。

◆背中を押してくれた高校留学経験◆
早稲田大学ではなく、キングス・カレッジを選んだのは、チャレンジをしたいという気持ちが強くなったためのようです。小6のときにはどちらかというと物静かだった彼がどう変わっていったのか、興味をもって聞き進めると、チャレンジ精神を掻き立てられた経験の1つに、高校2年生時の1年間におよぶ留学がありました。高校留学自体がチャレンジングなことですが、母校の成蹊高校に充実した高校留学支援制度があり留学する生徒がもともと多かったことと、高校1年のときに友達が留学したことが、彼を後押ししたようです。高校留学のときには、英語圏ではなく、スペインを選びました。バルセロナだったため、学校では、9割の授業がカタルーニャ語で行われたそうです。一方で、ホームステイ先では、本人の希望によりスペイン語を使って話しかけてもらいました。
小学生のときの現地校経験があったため、留学先の学校での生徒同士のコミュニケーションには困らなかったものの、カタルーニャ語もスペイン語も初めて学ぶ言語で、授業はただ座って聞いているだけの日々が続いたそうです。しばらくして、無駄な1年間にしてはならないとの思いにかられ一念発起してからは、友達に片言のカタルーニャ語で話しかけ、カタルーニャ語の音楽を聞き、授業中の音読にも積極的に手を挙げたとのこと。辛い日もありましたが、これらの努力は報われ、帰国までには、カタルーニャ語とスペイン語の両方を話せるようになったそうです。夏は学校帰りに友達と毎日のように海に行き、冬は近くの山でスキーをするなど、充実した生活も送ることができました。これらの経験を通して、自ら行動し、難しいことにも挑むことは、自分の成長に欠かせないのだと、心に強く刻んだそうです。
英国の大学に行きたいと思うようになったのは、Tくんと同じように世界各国から留学しに来ていた生徒たちの影響が大きかったようです。それぞれの生徒の母国の現状や社会問題について話すうちに、それまでに出会ったことがない価値観や考え方に触れ、帰国後も、多くの刺激と多様な価値観が混在する環境で学びたくなったそうです。  Tくんは今、英国で充実した学生生活を送れていて、その自分があるのは、高校留学を通して勝ち得たチャレンジ精神のおかげだと思っているようです。

◆母校の高校留学支援体制◆
成蹊高校には、独自の交換留学制度があり、アメリカ、オーストラリアにある提携校に1年または2年間の留学ができ、留年なしで復学することができます。また、提携校以外への留学も認められていて、同様に留年なしで復学ができるのですが、Tくんは、「AFS(American Field Service)」のプログラムを利用しました。
AFSは、世界60ヶ国にあるパートナー組織と連携して、高校生の留学を70年以上にわたり支援してきた経験豊富な団体です。ホームステイは、ホストファミリーの善意のボランティアにより成り立っていて、特に費用はかからず、通学校は国立・公立校が選ばれるため、授業料もかかりません。1年間の留学に必要な費用は、往復航空券やAFSの運営経費分で、欧州の場合は145万円+海外旅行保険+留学中の小遣いなどになります。
「国際ロータリークラブ青少年交流」や「YFU(Youth For Understanding)」も同様のプログラムを提供していて、費用面も変わりません。ちなみに成蹊高校の場合、留学期間中に成蹊高校に支払う学費は半分ほどが免除になったそうです。
上記のプログラムに参加するには、一般教養試験、英語の試験、面接試験が課され、希望国が成績順に決まりますが、人気のある英語圏でなければ、比較的通りやすいようです。高校在学中の留学にも各団体の奨学金がありますので、それらを利用できれば、費用面を含め、高校留学は、本人の意欲次第で実現可能なものと言ってよいでしょう。
費用面について付け加えると、英国大学に正規留学する際、International Student の場合には、学費のみで、年に2万5千ポンドほどかかります。ただし、日本学生支援機構(JASSO)の給与型の奨学金が利用できれば、約1万7千ポンド(250万円)を上限に給付されます。

◆高校留学に踏み切らせてくれたAO入試◆
Tくんの高校留学時期は高2の9月から高3の6月まででした。高校生のときに長期留学をする場合は、高1?高2にかけて行うのが普通です。大学受験の準備期間を考えると心配になるからです。それにも関わらず、高2の9月からの留学に踏み切れたのは、現在の日本の大学入試の多様化のおかげです。成蹊高校からの説明も受け、日本の大学入試には、AO入試で挑戦することにしたのです。
Tくんは、スペイン留学を終えて帰国後、短期間ですが、AO入試や推薦入試に向けた指導で定評のある早稲田塾にも通いました。そこで日本語の小論文を書く力、面接や志望理由書作成に向けた表現力を鍛えたそうです。 ちなみに、早稲田大学政経学部のAO入試では、一次試験で学校成績・活動報告書・英語能力試験のスコアカードなどの書類審査と日本語による小論文試験が課され、合格者のみが二次試験の面接試験に臨むことができます。なお、早稲田大学政経学部のAO入試の小論文試験は例年9月はじめに、二次試験は9月20日過ぎに行われています。
Tくんの場合、活動報告書に留学のことが書けたので少し有利だったのですが、留学をしただけでは不十分で、留学先で具体的に何を行い、その具体的な活動を通じて何を学んだかを記入する必要がありました。

◆AO大学入試の現状◆
AO入試は現在、57の国立大学、28の公立大学、476の私立大学で導入されています。AO入試を行っていない主要大学は、東京大学と名古屋大学ぐらいで、ほとんどの大学で行われているといっても過言ではありません。なお、多くの私立大学のAO入試は、書類と小論文と面接で選考されますが、私立大学でも理系の学部では、慶応大学の理工学部や早稲田大学の先進理工学部など、書類の審査基準が厳しいところもあります。どちらも、世界的・全国的なレベルで高い評価を得た者、つまりは数学・化学・物理・生物・情報オリンピックなどで好成績を収めた学生を求めています。その他、国立大学には、すべてではありませんが、大学入試センター試験を課すところもあります。

◆迅速に進めた海外大学進学準備◆
小6までに英検1級に合格していたTくんは、AO入試があったおかげで、その英語力を生かして安心して高校留学にチャレンジできたのですが、早稲田大学政経学部に居場所を確保するとすぐに、英国の大学進学を目指して準備を始めました。その際は、英語によるパーソナル・ステートメントの書き方指導など海外大学留学支援に定評があるトフルゼミナールにも通いました。
別れ際に、進学説明会やJOBA便りを通してTくんのことを伝えても良いかと尋ねると、こころよく、ぜひいろいろなオプションがあることを伝えてください、と言ってくれました。

◆誰もが海外留学できる時代に◆
留学というオプションは、かつては誰にでも選べるようなものではありませんでしたが、現在では奨学金や支援制度が整ってきて、意欲のある学生であれば、チャンスをつかめるようになってきました。東京都は、都立高校生を対象に「次世代リーダー育成道場」と題したプログラムを用意して、半年から1年間におよぶ事前研修と、アメリカまたはオーストラリアへの1年間の高校留学をサポートしています。必要な費用はすべて込みで80万円という安さです。
大学時代の留学についていえば、海外大学との交換留学制度はほとんどの大学にあり、渡航費と海外での生活費をプラスすることで、実現可能です。その中には、秋田の国際教養大学や早稲田大学の国際教養学部など、1年間の交換留学を必修にしているところもあります。
正規の海外大学入学も、IBディプロマコースをもつ公立や国立高校ができたことと奨学金の充実のおかげで、以前よりは臨みやすくなっています。英語によるIBディプロマコースがある都立国際高校では、今年のべ61人が海外大学に合格しました。日本語と英語によるデュアルランゲージ・ディプロマコースを実施している東京学芸大学附属国際中等教育学校では、のべ28人が海外大学に合格しました。

◆帰国生が海外留学する意味◆
海外経験がある生徒と日本だけで生活してきた生徒では、海外留学の捉え方は全く異なるでしょう。現地校への通学経験をして苦労した場合や海外経験が長い場合には、海外の学校はもう十分だと考える人もいるかもしれません。それでも、Tくんほか大学の交換留学制度を使って英国に戻ってきた元生徒たちから知りえた様子からは、学びの内容はもちろん、親が帯同していた海外生活と一人で何もかもしなくてはいけない海外生活では、経験できることが全く違うことに気づかされます。
将来の希望により、どのタイミングでどのような留学をするのがいいかは、人により異なるでしょう。けれど私たちの生徒には、ぜひいつの日か海外留学にチャレンジしてほしいと思います。

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