現政権になり、たくさんの教育改革が進められていますが、その中でも次の二つの改革に注目しています。一つは、国際バカロレアの導入です。もう一つは、大学入試改革です。今回は、この二つの改革をどのように捉えたらよいかについてお伝えします。
〈国際バカロレアとその導入〉
今年の4月から都立国際高校に公立校初の国際バカロレアコースが設置されます。国際バカロレアは、スイスのインターナショナル・スクールに勤めていた英国人が中心になり築いた教育プログラムで、現在は147カ国にある4000校近い学校で実施されるなど、その教育手法は各国で高い評価を得ています。
これまで英語、フランス語およびスペイン語でしか学べなかった大学入学資格を得るための学習課程が、今年から歴史、数学、理科などは、日本語での学習が可能になりました。これを受けて、前述の都立国際高校はじめ東京学芸大学附属国際中等教育学校、私立では立教女学院、茨城県の茗溪学園ほか多数の学校が、ディプロマプログラム認定に向けた準備を始めています。文科省は、昨年の閣議決定を受け、このプログラムの認定高校を2018年までに200校設けることを目標にしています。
国際バカロレアの「ディプロマプログラム」で所定のカリキュラムを二年間学び、最終試験で所定の成績を収めれば、世界中の大学に出願することができます。
日本の大学の中にも、面接とこの試験結果のみを審査して入学を認めるところが増えてきました。国立では、筑波大学、大阪大学、岡山大学など、私立では、慶応大学、早稲田大学、上智大学、国際基督教大学などです。さらに、昨年9月に決定したスーパーグローバル大学に選ばれた37大学では、その全校で国際バカロレアを活用した入試の実施を決定しています。これは、外国人学生を確保し、日本の大学を活性化するための試みですが、その一方で、ディプロマプログラムを導入している高校にとっては、生徒の進学候補先が、国内の大学にも広がることを意味します。
〈大学入試改革〉
文科省の諮問機関である中央教育審議会がまとめた大学入試改革案が、いよいよ本格的に施行される見込みです。今のところ、現在のセンター試験を「学力評価テスト(仮称)」に変え、これまでの選択式の問題に加え、教科間の融合問題や記述問題も出題する考えのようです。また、高2から受験ができる「基礎学力テスト(仮称)」を導入するそうです。これにより、国立大学を目指す場合には、二次試験(個別学力試験)も含め、合計3つのテストを経る必要が出てきました。
今回の大学入試改革の大きなポイントは、「基礎学力テスト」の導入のほか、「学力評価テスト」も「基礎学力テスト」も1年に2回用意され、2回受けた場合には、良い結果の方が採用されるということです。さらに最も大きな改革内容は、記述式や論述式の問題を増やし、多面的な思考力を評価しようということです。「基礎学力テスト」は2019年度から、学力評価テストは2020年度からの実施が検討されています。国立大学の個別学力試験は、すでに単なる教科試験ではなく、総合問題や小論文、面接を課すところが増えていますが、2016年度からはより一層思考力重視型の入試に変わるようです。
〈今後の学校選び〉
国際バカロレアの導入の目的は、英語力を伸ばすことや留学希望者を増やすことだけではありません。国際バカロレアのプログラムを通して、国際的な視野を育むこと、探究心、知識、思いやりに富んだ若者を育成することです。具体的な教育手法としては、一方的に知識を教えるのではなく、自発的に学ぶことを教師がサポートし、教師と生徒、生徒間のコミュニケーションを重視します。また、教科横断型の授業が多いのも特徴です。
ところで、国際バカロレアのプログラムを通した学びは、今回の大学入試改革にも通じるものだと言うことができます。さらに言えば、国際バカロレアの導入校は、日本の大学受験においても有利になったと考えてよいでしょう。その理由を、東京学芸大附属中等教育学校(以下、学芸中等教育学校とする。)を例にお伝えします。
学芸中等教育学校は、国際バカロレアのプログラムを取り入れていますが、現在はミドル・イヤー・プログラムまでで、ディプロマプログラムの認定校ではありません。そのため、海外の大学に進む生徒は少なく、ほとんどは日本の大学に進学しています。日本の大学受験の際は、語学力などを活かしてAO入試を受けるか、一般入試に臨む生徒もいます。現在は、ディプロマプログラムの認定校を目指していますが、認定後も全生徒がディプロマプログラムを取るのではなく、一般入試にも対応できる現状カリキュラムかディプロマプログラムのどちらかを選択することになるはずです。その時点で英語力に不安がある場合などは、現状のカリキュラムを選ぶことになるでしょう。この場合、海外の大学へ進学はしにくくなりますが、上記の大学入試改革が進めば、探求型学習をしている学芸中等教育学校の生徒はその強みを発揮しやすいのではないかと思われます。
国際バカロレアの導入校に限らず、現在では探求型授業を取り入れている学校は少なくありません。制度こそ違ってもカナダの高校卒業資格が取れるダブル・ディプロマコースを始める文化学園大学杉並中学・高等学校のような学校も出てきました。今後は、まずます「国際バカロレア型」の学校は増えていくことでしょう。そのような中、学校選択はより難しくなるはずです。学校の取り組みを詳しく知り、子供の将来を見据えて子供にあった学校を選びたいものです。
〈家庭の役割〉
学校で探求型の授業が始まれば、家庭での手助けが今以上に必要になるかもしれません。たとえば、調べ学習が課題である場合には、子供にアドバイスを求められることもあるでしょう。または、レポートが課題のときには、内容や文章のチェックをしてあげたいものです。その一方で、探求型を重視する学校では、反復練習をする時間は取りにくいため、基礎学力の習得については家庭に任されるかもしれません。
今回の大学入試改革が求める学力は、深い思考力、表現力、豊かな創造性です。これらを育てるのは容易なことではありません。学校と本人だけに任せておけばうまくいくようなものではないでしょう。前述したこと以外にも、良書を与えること、よいテレビ番組や映画を選び一緒に見ること、その内容をテーマに議論すること、旅行先は学校の学習活動に合わせた場所を選ぶこと、なども家庭の大事な役割になるのではないか思われます。